超短波帯・極超短波帯(VHF/UHF)におけるデジタル音声通信
20世紀末になると、デジタル技術は飛躍的に進歩し、アマチュア無線の世界でもデジタルで音声通信をしようという試みが始まります。
日本アマチュア無線連盟(JARL)はアイコム株式会社と共同で、世界初となるアマチュア無線に特化したデジタルモードを開発し、2002年にはデモ機が公開されました。これが
D-STAR (Digital Smart Technologies for Amateur Radio)です。2004年には世界初のデジタル無線機ID-1がアイコムより発売され、レピーターも設置されました。
このようなデジタル通信の始まりに合わせて、1998年にはアマチュア無線の公衆通信網への接続が認められました。これによってVoIP技術によるインターネット利用の通信が可能となりました。
JARLはD-STARのサーバーを設置し、ネットワークが開設されました。世界的には独自にレピーターや通信を中継するレフレクターと呼ばれるサーバーが設置され、このモードを使った全世界との交信が
可能となりました。
一方、八重洲無線株式会社は2000年代になってアマチュア無線用のデジタルモードの開発を進め、2013年にC4FMと呼ばれる方式での無線機を発売します。八重洲無線ではアナログFMを使った
インターネット上のネットワーク、WIRES-II(Wide-coverage Internet Repeater Enhancement System)を構築していましたが、それをデジタルに変更してWIRES-Xと言うネットワークを
展開しています。全世界にはルームと呼ばれるリフレクターが多数あり、レピーターとも接続されています。なお、日本にはC4FMのレピーターはありません。
世界的に見ると上記二つの通信方式の他に、業務用として開発された方式がアマチュア無線にも取り入れられています。特にモータ-ラ社が開発したDNR(Digital Mobile Radio)は、業務で
使われていることから無線機の価格が安いという利点があり、急速に利用が進んでいます。日本では2000年代初め頃、八重洲無線がモトローラ社と提携して業務機を製造販売していましたが、
アマチュア無線の世界では今もほとんど使われていません。その他、P25(Priject 25)やNXDN (Next Generation Digital Narrowband)が使われ始めていますが、日本ではほとんど普及していません。
D-STAR
2014年から5年間、仕事のために京都へQSYしました。京都の両親の家に住みましたが、アマチュア無線を楽しむにはアンテナを立てることも出来ず、近くにD-STARのレピーターがあることから、
初めてD-STARをやってみることにし、ICOMのID-51Plusを購入しました。D-STARではインターネットを介して遠距離のレピーターと接続できます。私が期待したのはネットワークが世界的に広がっているので国外のレピーターからも
電波が出せる、でした。しかし、JARLのシステムはリフレクターにつながっておらず、国外に接続するのは極めて難しい事がわかりました。
アメリカのアマチュア無線連盟ARRLの機関誌QSTの情報で、DV-Dongleと呼ばれる小さな機器があることを知りました。これをパソコンのUSBポートに接続して、PCのマイクからの音声をD-STAR
モードにエンコードしてインターネットを介してリフレクターに送信して交信することが出来ることを知りました。早速アメリカから購入しました。大きさは8×4cm、厚さ1.5cm程の小さな物です。
ダウンロードした ドライバーをインストールすると、すぐに使えました。
リフレクターは主に国ごと、言語ごと、グループごとに数多く設置されており、DV-Dongleを制御するソフトウェアの中にリストとして保存されています。その中から選んで接続してPCから声を出すと、
そのリフレクターに接続しているレピーターと個人局にその声が届きます。リフレクターでの交信は全て聞くことができるのでラウンドQSOやロールコールも可能です。もちろん海外の局とも簡単に交信でき、これでずいぶん楽しみましたが、
無線機は全く使わないので、せっかくのID-51が遊ぶことになってしまいました。
そこで、個人用シンプレックス・レピーターとも言えるホットスポットを設置することにしました。日本の「XRFリフレクター同好会が頒布しているNoraGatewayを購入しました。
430MHz帯のトランシーバーと それを制御するラズペリー・パイ(Raspberry Pi)と言うLinux PCで構成されています。大きさは9cm×4.5cm、高さ2.5cmほどの小さな機器で、アンテナは内蔵されています。出力がわずか20mWとは言え、
日本の電波法では無線局免許が必要で、さらに、同じコールサインの無線機同士の交信は禁止されており、私のID-51とホットスポットは異なるコールサインが必要です。総務省に申請して新たにJF9RGCと言うコールサインを固定局として取得しました。
この機器の小さなPCはインターネットにLANもしくはWiFiで接続されており、トランシーバーで受信したシグナルとインターネットから流れてきた信号の出入り口、つまりゲートウェイを構成しています。ネットからのシグナルはとトランシーバー
から送信されます。このトランシーバーの出力が非常に低いので、ホットスポットから遠いところからアクセスは出来ませんが、家の中や庭仕事をしながらハンディー機片手に海外の局とおしゃべりが楽しめます。
接続するレフレクターをあらかじめトランシーバーのメモリーに書き込んでおくとリモートで接続変更が出来ます。
C4FMとWIRES-X
C4FMにも出たくなり、八重洲無線のFTM-300Dを購入しました。前述したように日本にはC4FMのレピーターはありません。そのかわり、インターネットに接続された自前のレピーターとも言えるノードを設置することが出来ます。
ただ、そのためにはPCに接続するHRI-200と言うインターフェースを購入する必要がありました。しかし、このFTM-300Dは無線機とPCをUSBインターフェースで接続して直接インターネットに接続できるポータブルHRIモードが
使えます。この機能を使ってWIRES-Xネットワークに出られ、PCで稼働しているWIRES-Xソフトウェアで色々なルーム、リフレクターに接続できます。
マルチモード対応のホットスポット製作
2018年頃から、海外の局からマルチモードのホットスポットについて聞くことが多くなりました。
マルチモードのモデム(Multi Mode Divital Voice Modem: MMDVM)を使い、現在アマチュア無線で使われているデジタルモード全て、 つまりD-STAR、C4FM、DMR、P25、NXDNに対応しています。私が使っている
NoraGatewayに使われているのがこのボードだとわかり、これを使うことにしました。NoraGatewayではアンテナとしてダミーロードと短いワイヤーアンテナを内蔵していましたが、SMBコネクタを付けて本来の姿に戻しました。
また、0.93インチのOLEDディスプレーを付けました。これにRaspberry Pi 3 A+ を組み合わせ、アメリカから購入したアクリル板のケースに組み込みました。
このホットスポットの設定にはWebブラウザからPi-Starと言うアプリを使って行います。ブラウザからアクセスすると、設定画面が現れコールサインの設定、運用周波数の設定などが出来ます。現在持っている
トランシーバでアクセスできるモード、D-STARとC4FMを設定しました。これで、D-STARネットワークとC4FMによるネットワーク、Yaesu System Fusion (YSF)にリンクできます。ホットスポットが動作しているときのダッシュボードには、RaseberryPiのCOU温度、
動作しているモード等が示されます。D-STARで接続するリフレクターはこの画面からも設定できますが、トランシーバーのメモリーに設定したリンク先を«TO»に設定してカーチャンクすると接続できます。その後、トランシーバーの«TO»の設定を«CQCQCQ»にして交信します。
MMDVMボードのディスプレーは★D-STARになり、接続局が表示されます。ダッシュボードの«Radio Info»が«Listneing»の時にFTM-300DでカーチャンクするとYSFに切り替わり、MMDVMボードの表示はFusionに
自動的に切り替わり、設定したリフレクターから交信が可能になります。モードの切替はインターネットからのシグナルでも自動的に行われます。
先述したWIRES-Xは八重洲無線のサーバーによるネットワークで、八重洲無線の無線機かインターフェースであるHR-200を購入しないと入ることが出来ません。それに対してC4FMのネットワークであるYSFはドイツで開発された全くの別物です。
DMRとのやりとりは簡単でPi-Starにもその機能があります。一方、WIRES-Xとはbrigeを介してリンクする必要があり、America Linkなどいくつかのルームがリンクしているのみです。せっかく同じデジタル通信というプラットフォーム上にいるので、これからはもっと簡単に
リンクできるようになることを期待しています。